変形性股関節症と正しく向き合う会の代表理事、井口です。
変形性股関節症の患者さんが人工股関節手術を考える際、聞きなれない言葉に戸惑うことがしばしばあります。
そのような言葉の一つが「手術のアプローチ方法」。
協会でも相談を受けることがあるのですが、患者さんにとっては、この言葉の具体的な内容をイメージすることや、自分にとってどの方法がベストなのかを判断することが難しいようです。
そこで今回は、人工股関節手術の代表的なアプローチ方法についてお話します。
手術を検討する際の基礎知識として、ぜひ理解しておいてください。じ
そもそも人工股関節手術の「アプローチ方法」とは何か?
これは、簡単に言えば”手術をどのように行うか”ということです。
人工股関節手術の場合、「皮膚のどこを切るか」「筋肉をどうするか」の違いで、主に次のようなアプローチ方法があります。
前方アプローチ
前方アプローチとは、前方系アプローチの一つで、股関節の前側から皮膚を切開する方法です。
前方系アプローチには、筋肉や靭帯を切らないという特徴があります。
そのため、術後の回復が早く、リハビリ期間や入院期間が短くなる傾向にあります。
なお、患者は仰向け(仰臥位:ぎょうがい)で手術を受けます。
前外側アプローチ
こちらは、前方アプローチと切る場所が異なり、太ももの前外側から皮膚を切開する方法です。
前方系アプローチであるため、筋肉や靭帯を切らない特徴があります。
そのため、前方アプローチ同様に術後の回復が早く、リハビリ期間や入院期間が短くなります。
こちらも、患者は仰向け(仰臥位:ぎょうがい)で手術を受けます。
後方アプローチ
後方アプローチとは後方系アプローチの一つで、お尻から太ももの外側を切り、股関節の後ろから手術を行う方法です。
手術時の患者さんの体勢は横向き(側臥位:そくがい)となります。
昔からある方法で、股関節の後ろ側にある”短外旋筋群(たんがいせんきんぐん)”という筋肉を切るため、動きに制限がでる特徴があります。
また、このアプローチでは股関節を深く曲げると脱臼しやすくなる場合があります。
脱臼は、一旦切った筋肉を修復することで起こりづらくなりますが、後方アプローチで手術した患者さんには正座や和式トイレ等の行動制限がかかるケースが多いです。
なお、後方アプローチの利点として、医者の経験値の差が出にくいことがあります。
股関節部分の骨の変形や大腿骨の再置換の時には、後方アプローチが効果的な場合もあります。
側方アプローチ
側方アプローチとは、股関節の側方から皮膚を切開して手術を行う方法です。
後方系アプローチ同様、手術時の患者さんの体勢は横向き(側臥位:そくがい)となります。
この方法は手術する場所が見やすいため、後方アプローチよりも脱臼の可能性が低くなります。
ただ、後方アプローチ同様に骨や筋肉を一度切る必要があるため、術後の筋力は低下します。
そのため、リハビリに時間がかかるケースが多いです。
ちなみに
股関節学会の発表などを見ると、日本では、前方系アプローチ(前方アプローチ/前外側アプローチ)が40%、側方アプローチが20%、後方アプローチが40%という割合だそうです。
私の場合、手術の傷口から確認すると側方アプローチのようですが、術後の回復は非常に早かったです。特に、2回目の手術では、手術翌日には普通歩行ができていました。
ただし、この結果は、アプローチ方法もあるかもしれませんが、1回目の手術後から自宅でのリハビリをずっと続けた結果が最大の要因だと思います。
関連して
最近の人工股関節手術では、最小侵襲手術(MIS)と呼ばれる手法が主流になっています。
この手法は、傷口が小さい・筋肉を切らない、という特徴がある、それ故に術後の痛みが少なく、リハビリを行いやすい傾向にあります。
そのため、アプローチ方法やMISの情報に接した患者さんは「MIS手術で前方アプローチがいい」と考えます。
ただ、MISによる手術は技術的な難易度が高いため、この手法で手術するのであれば、執刀医の手術経験が非常に重要となります。
また、執刀医がリハビリを重視していなければ、術後の回復が進まないこともあります。
今回は
人工股関節手術の「アプローチ方法」をお伝えしました。
手術を検討する際の基礎知識として、ぜひ理解していただければと思います。
ただ、私が強く思うのは、結局人工股関節手術は、手術のアプローチ方法うんぬんではなく、執刀医の腕とリハビリが一番重要なポイントだ、ということです。
後で後悔しないためにも、手術についてはそれらのポイントもしっかり抑えて検討することをおススメします。
一人で悩んでもなかなか答えが出ない場合は、個別相談付きのメディカル・アロマケア体験会や個別相談も活用してください。
この記事が、変形性股関節症の患者さんにとって少しでもお役に立てればうれしいです。
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