変形性股関節症と正しく向き合う会の代表理事、井口です。
「手術するのか、保存療法でいくのか」
これは、変形性股関節症の患者にとって非常に重要な判断になります。
実際、協会でもこのテーマに関する相談を受けることが多いのですが、そこで感じるのが、手術と保存療法の判断に先立って知っておくべき知識が不十分な患者さんが意外と多いこと。
そこで今回「手術か、保存療法か」という判断の前に知っておくべき基礎知識をお伝えします。
ぜひ、手術と保存療法に関する基礎知識を見直す一つのきっかけとしてください。
「手術」に関する基礎知識
まずは、手術に関する基礎知識です。
変形性股関節症の手術ですが、主なものに関節鏡視下手術、骨切り術、人工関節置換術、筋解離術、関節固定術があります。
関節鏡視下手術(かんせつきょうしかしゅじゅつ)
これは、股関節周辺に小さな孔を2~4か所開けて行う手術です。
孔から関節内にカメラを入れ、さらに他の孔から手術器具を入れることで股関節の損傷部位を修復したり、不要な骨や傷ついた組織の切除・除去を行う方法です。
前期、初期、進行期、末期までどの病期でも受けることが可能ですが、主に前期の患者、初期で関節唇損傷がある患者、進行期で片側のみ手術する患者などが対象となります。
入院期間は病期によって異なりますが、2週間~1ヶ月以上です。
この方法には、傷痕が小さくてすむので体の負担が少ないというメリットがありますが、一方で暫定処置のため効果の持続期間に限りがある、再度悪化した場合、人工関節置換術をする場合があるというデメリットがあります。
骨切り術(こつきりじゅつ)
骨切り術とは、患者自身の骨の一部を切り取り、関節の構造を変化させる方法です。
股関節のソケット部分である寛骨臼(かんこくきゅう)と股関節のボール部分である大腿骨頭(だいたいこっとう)の位置関係を変えることで股関節の痛みをなくすことを目的とします。
骨切り術では病期によって主なやり方が変わります。
前期、初期の場合
主な手術方法として、
・寛骨臼移動術(かんこつきゅういどうじゅつ)
・寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ)
があります。
(2つの名前を書いていますが、1つの手術法と考えて下さい。)
前期・初期段階での手術は、
・骨盤側の寛骨臼から2センチ程奥をノミで切って切り離す
・骨頭を十分に覆うように切り出した寛骨臼をずらし、ピンで固定する
という形で進められますが、この手術により外側にずらした寛骨臼が骨頭を深く包み込むようになるので、股関節が安定します。
なお、年齢が若くて大腿骨頭に変形がない場合なら、進行期で行われることもあります。
進行期の場合
主な手術方法として、
・外反骨切り術(がいはんこつきりじゅつ)
・キアリ骨盤骨切り術(きありこつばんこつきりじゅつ)または臼蓋形成術(きゅうがいけいせいじゅつ)
などがあります。
両方とも、大腿骨頭の屋根部分を覆うことで股関節を安定させる手術ですが、外反骨切り術は大腿骨頭の角度を変える手術、臼蓋形成術は寛骨臼の屋根根部分を広げる手術、といった違いがあります。
股関節の変形が進行した場合には、この2つの方法を併用するケースも多いです。
入院期間としては、股関節に全体重をかけることができるまでに1~2カ月。
人工股関節手術に比べると、入院期間も退院後のリハビリ期間も長くなります。
また、術後にベッドで寝ていると下半身の血流が悪くなり血栓ができやすくなるため、術後一週間は、注意が必要です。
人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)
変形性股関節症で「手術」といった場合に多くの患者さんがイメージするのがこの方法です。
傷んだ股関節を取り除いた後、対になる人工の寛骨臼と大腿骨頭を、それぞれ骨盤と大腿骨に埋め込み固定します。
人工股関節手術は、股関節の変形がかなり進み、他の治療方法が困難な場合に行われます。
主に50代以上の進行期、末期の患者が対象となり、入院期間は2~3週間程度です。
この方法の最大のメリットは
股関節の痛みがなくなり、術後の日常生活が劇的に改善されることです。
そのため、比較的短期間で、社会復帰することが可能です。
また、変形性股関節症によって生じた左右の脚の長さの差も元に戻すことができます。
私は、仕事に早期に復帰したかったため、この手術を行いました。
一方で
この方法には人工関節の耐用年数に限りがあるというデメリットがあります。
現在は技術の進歩により、耐用年数が20~30年以上といわれていますが、人工関節の摩耗、緩み・脱臼などがある場合には再置換手術が必要となります。
筋解離術(きんかいりじゅつ)
筋解離術とは、筋肉の一部を切って股関節の痛みを緩和する方法です。
この方法は、関節鏡視下手術や骨切り術、人工関節置換術が難しい場合に行われます。
入院期間は一ヶ月弱で、手術中の出血が少ないという特徴があります。
筋解離術のメリットは
手術時間が1時間前後ですむこと、出血が少なく術後の痛みも強くない点が挙げられます。
一方、術後関節の動きはよくなるのですが、筋力が完全に回復するわけではなく、結果として立ち上がりや歩行等がスムーズにできない場合がある点には注意が必要です。
この特徴から、重労働の方や筋力回復が難しい70歳以上の高齢者にはそぐわない方法です。
関節固定術(かんせつこていじゅつ)
これは、寛骨臼と大腿骨頭の一部を削り、金属プレートやピンなどで固定する方法です。
重労働をしている20~30代の男性で、人工関節置換術が難しい場合に検討されます。
入院期間は約2カ月ですが、股関節を動かないように固定するため、動作の負担や股関節の痛みがなくなる点がメリットです。
一方、股関節の可動域がなくなるため、どうしても腰や膝に負担がかかってしまい痛みが出ることがある点、リハビリ後も脚を引きずる歩き方が残ってしまう点がデメリットとなります。
「保存療法」に関する基礎知識
保存療法は、股関節の痛みを取り、変形性股関節症の進行を抑えるために行われます。
内容としては、日常生活の見直し、運動療法、薬物療法という大きく3つに分かれます。
変形性股関節症と診断された場合、末期を除いて保存療法からスタートするケースが大半です。
日常生活の見直し
股関節にかかる負担を減らすために、日常生活で行う動作を見直す取り組みを行います。
動作の見直し
股関節にかかる負担を減らすために、以下のような動作をなるべく避けて日常生活を送ります。
・ しゃがみこむ
・ かがんで作業する
・ 床や椅子などから立ち上がる
※椅子にはなるべく浅く腰掛ける
生活環境の見直し
股関節にかかる負担を減らすための生活環境を整えます。
環境の整え方は人それぞれで異なりますが、私の場合は寝具を見直しました。
見直し前は布団を使っており、股関節に大きな負担がかかっていたため、ベッドに変えました。
運動療法
運動療法とは、変形性股関節症の進行を遅らせたり、痛みを軽減するための筋力強化の運動を行うことです。実際には、理学療法士が考案した運動メニューに沿って行うことが多いです。
運動療法ですが、私の経験上、変形性股関節症と診断されたら何よりも一番に実践していただきたいものになります。
その際、必ず「リハビリ運動と股関節ケアの両輪」に基づいた実践を継続してください。
薬物療法
薬物療法は、股関節の痛みがつらいときに行うものになります。
代表的なものとしては、飲み薬を使う、湿布と塗り薬を使う、坐薬を使う、注射する、などがあります。
飲み薬
変形性股関節症の進行期くらいから、股関節に強い痛みがでるようになります。
その際、主治医に症状を話すと痛み止めの薬を処方してくれます。
ただ、飲み薬は長期間服用すると胃腸障害が起きやすくなりますので、注意が必要です。
湿布と塗り薬
これは、股関節などの痛みへの一般的な対処法となります。
ただ、私の実感としては股関節の痛みそのものについては、ほとんど効果がありませんでした。
坐薬
飲み薬で効果がない場合に、主治医より坐薬が処方されます。
ただ、先ほどもお伝えした通り、薬については主治医とよく相談しながら、上手に利用していくことが大切です。
注射
注射には、主にステロイド剤とヒアルロン酸の2種類があります。
ステロイド剤は、股関節内に強い炎症が起きている場合などに行われます。
ただし、ステロイド剤は軟骨の働きを弱めるケースもあり、あまり積極的には使われません。
ヒアルロン酸は、関節内の潤滑油のような役割を目的として、膝の関節に使われています。
今回は
手術と保存療法に関する基礎知識をまとめてお伝えしました。
手術と保存療法の判断に先立って、必ず押さえておきたい内容となります。
ぜひしっかりと理解してください。
また、手術か保存療法かの判断に迷う場合は、個別相談付きメディカル・アロマケア個別体験会や井口由紀子の個別相談を通じて協会に相談していただくことも可能です。
この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
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