【変形性股関節症】第52回 日本股関節学会学術集会で学んだことをシェア(後半)

       

 

変形性股関節症と正しく向き合う会 代表理事の井口です。

2025年10月24日(金)から25日(土)にかけて、下関で開催された第52回日本股関節学会学術集会に参加してきました。

人工股関節手術、リハビリ、筋力、歩行、QOL(生活の質)など股関節に関連する多数の研究結果が発表され、非常に学びの多い2日間でした。

今回は

学会で発表された多数の研究の中から、変形性股関節症の患者が知っておくべき研究や生活の質を高めるヒントになる研究を9つ選びました。

長くなるため、前半・後半の2回に分けてお伝えします。
今回は後半、9つの研究内容の残り5つです。(前半はこちら
ぜひご覧ください。

メディカル・アロマケア体験会

5つ目

まずは「変形性股関節症患者の臼蓋形成不全は骨格筋の筋質と関連するか」を調査した研究。

少し用語を説明すると
・骨格筋=体を動かす筋肉
・筋質=筋肉がどれだけ健康で機能しているかを示すもの。脂肪が少なく密度が高い筋肉ほど“良い筋肉”とされる
になります。

この研究は、変形性股関節症の患者を対象に受け皿が浅く股関節が不安定になりやすい状態(臼蓋形成不全)と股関節まわりの筋肉の質がどういう関係があるのかを調べたものになります。

一般的なイメージでは

臼蓋形成不全の場合は股関節が不安定になりやすく、痛みを避けた不自然な動作が増えた結果、一部の筋肉ばかりが頑張りすぎたり、逆にあまり使われない筋肉が出てきたりして血流が悪くなり、筋肉の中に脂肪が入り込む=”筋質が悪化する”悪循環が生じる、と思われがちです。

ところがこの研究では、少し意外な結果が示されました。
臼蓋形成不全が強い患者ほど、正常な筋組織がしっかり保たれ、脂肪浸潤が少ない=股関節を支える小殿筋・中殿筋・腸腰筋の筋質がよい、という報告がなされたのです。

このようなことが起こる理由として

研究では以下のように推察しています。

臼蓋形成不全があると股関節は不安定になるため、身体はその不安定さを補おうとして、小殿筋・中殿筋・腸腰筋が常にしっかり働く状態になる。その結果、これらの筋肉が日常的に使われ続け、逆に筋質が保たれていた可能性がある。

つまり「不安定な股関節を支えるために、必要な筋肉ががんばって働き、筋質が良く保たれていた」という、非常に興味深い視点です。

臼蓋形成不全と聞くと「股関節が弱い」「筋肉も悪くなっているのでは」と考えられがちですが、この研究で筋肉は“使われ方”によって状態が大きく変わるということが示されました。

やはり、変形性股関節症の患者の筋質を改善するには、適切な筋肉の使い方やリハビリの質が大きく影響することを改めて感じました。

6つ目

次は「末期変形性股関節症における股関節周囲筋の筋量及び筋力の健患側比較」という研究。

分かりやすく言えば、末期の変形性股関節症で股関節の周りの筋肉がどのように弱っていくのかを、“痛くない側(健側)”と“痛い側(患側)”で比較した研究になります。

これまで、健側と患側をしっかり比較しているデータは意外と少なく、今回の研究はとても貴重な内容でした。

研究結果のまとめ

変形性股関節症が進行すると股関節を支える筋肉の萎縮や筋力低下が生じます。
特に骨盤の安定に大きく関わる中殿筋は、萎縮しやすい筋肉としてよく知られています。
今回の研究では、この中殿筋がまさに重要なポイントでした。

まず、筋肉の“量”について比べたところ、中殿筋だけが患側で明らかに少ないという結果になりました。反対に、大殿筋・小殿筋・梨状筋では大きな差が見られず、「量」の変化は中殿筋に集中していることがわかりました。

さらに興味深いのは“筋力”の比較。外転・外旋・内旋といった股関節を動かす方向すべてで、患側は健側よりはっきり筋力が落ちていました。

筋肉の量では差がない筋肉でも、筋力だけが明らかに落ちているケースがあることが示され、筋肉の衰え方は単純ではないことが明らかになりました。

この結果について

研究では、筋力低下が筋肉の量の低下に先行して起こっている可能性があると推察しています。
特に中殿筋は負担のかかりやすい筋肉で、末期に近づくほど“力が入りにくい状態”になりやすいのだと考えられます。

そして、この研究の最大のポイントは「術前から筋力の低下にしっかり着目して介入していく重要性」、つまり筋力低下は筋量の低下よりも早く現れる可能性があるため、早い段階から適切なリハビリや筋力トレーニングを取り入れることが術後の回復に非常に重要だ、という点です。

末期の変形性股関節症では、「歩きづらさ」や「立ち上がりにくさ」を感じることが増えますが、その背景には筋力の低下が大きく関わっていることが理解できる研究でした。

7つ目

次は「人工股関節全置換術後の患者に使用するクーリングシステムの有用性の検討」。

この研究は、術後の患部を冷やすために使われるクーリングシステム(患部を一定温度で冷やす装置)と、従来から使われてきた氷のうを比較していました。

ちなみにクーリングシステムとは、冷たい水を循環させることで一定の温度を保ちながら冷却できる装置です。

結論としては

クーリングシステムは「術後の出血量の低減や痛みの緩和において氷のうと同じ効果がありながら、氷の交換や温度管理が不要で医療者側の手間を大幅に減らせる」という、非常に有用な選択肢であることが示されました。

患者さんの使用感も良好で、冷えすぎることもなく快適に使えるという声が多く、合併症も認められていません。

この研究を見て、術後ケアの質は“患者さんの負担を減らすこと”と“医療現場の効率化”の両面から進化していくのだと感じました。

8つ目

次は「人工股関節全置換術における当日離床の取り組み ーDREAMSの達成と共に振り返るー」の報告です。

ここでいうDREAMSとは

術後の早期飲水・食事摂取・離床・笑顔 の頭文字を組み合わせたもので“患者さんが早く、安心して普段の状態に近づくこと”を示すものです。

この報告で特に印象的だったのは、人工股関節手術当日に離床できたという点です。

その理由として挙げられていたのは、
・手術時間が短いため、術後の覚醒が早い
・麻酔時間が短いため、吐き気が少なく、当日から飲水・食事が可能
といった点ですが、これらが組み合わさった結果、研究対象の病院ではDREAMSを達成できたと分析されています。

9つ目

最後は「人工股関節全置換術後患者のシャワー浴開始時期に関する研究」です。

研究対象の病院では

元々術後6日目からシャワー浴を開始していました。

ただ、手術方法が「後側方アプローチ」から「前方アプローチ」へ変わったことで、人工股関節手術を受けた患者さんの97.6%が手術翌日に離床可能となり、術後のADL(日常生活動作)の回復も早まっていることが明らかになりました。

さらに興味深いのは、シャワー浴の開始が早まること自体が、患者さんの回復へのモチベーションにつながる点です。「早く普段の生活に戻れる」と感じられることは、術後の心理面にも良い影響を与えるのだと感じました。

今回は

第52回 日本股関節学会学術集会で学んだことから、私が重要だと感じた9つの研究のうち後半5つをシェアしました。前半と併せて、変形性股関節症の患者が知っておくべき内容です。

今回最新の知見に接することで”治療や手術の方法の進化だけでなく術後のリハビリや日常生活のサポートに関する考え方も大きく前進している”ということを改めて感じました。

この記事が、患者さんにとって少しでも役立つことを願ってやみません。

 


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